大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)106号 判決

東京地方裁判所が同庁昭和二十八年(ヨ)第五八四八号不動産仮処分命令申請事件について昭和二十八年八月十七日にした仮処分決定はこれを取り消す。

被控訴人の右仮処分申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は主文第一ないし第四項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、疏明の提出、援用、認否は、控訴代理人において、被控訴人は本件建物につき共有権を有することを主張するけれどもこれについて登記を経ていないのであるから控訴人に対抗することができず、この点においてすでに被控訴人の本件仮処分命令申請は失当であると述べ、甲第七号証の一、二の成立を認めると述べ、被控訴代理人において、訴外猪鼻武雄と控訴人との間の本件建物売買契約が右両人の通謀虚偽の意思表示でないとしても、本件建物は被控訴人と訴外猪鼻及び山岡正一との三名の共有であり、被控訴人はその三分の一の持分権を有するものであるから、右猪鼻が被控訴人ら他の共有者の同意を得ることなく右建物を控訴人に譲渡したのは、同人が故意に被控訴人の右持分権を侵害した不法行為であり、これにより被控訴人は右持分権の価額に相当する損害を受けたものであり、被控訴人は右猪鼻に対しその損害賠償債権を取得した、しかるに右猪鼻は他になんらの資産なく現にその債権者たる訴外株式会社平和相互銀行から有体動産の強制執行を受けているという状態であるから、本件家屋を控訴人に譲渡することは明らかに一般債権者を害するものであつて、右譲渡行為は、詐害行為として猪鼻の債権者から取り消されるべきものである。被控訴人の猪鼻に対する損害賠償債権は右詐害行為たる譲渡行為自体によつて発生するものであるが、このような場合被控訴人もまたその損害賠償債権を保全するため右譲渡行為を取り消し得るものといわなければならない、被控訴人は現に本件仮処分事件の本案訴訟(東京地方裁判所昭和二十八年(ワ)第八五六七号不動産所有権取得登記抹消請求事件)において右理由を予備的に主張しているので、本件仮処分申請の理由としてもこれを主張するものであると述べ<立証省略>たほか、すべて原判決の事実らんに記載されたところと同一であるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

被控訴人は別紙目録<省略>記載の建物はもと訴外中林鏗爾の所有であつたところ昭和二十六年二月十八日被控訴人と訴外猪鼻武雄同山岡正一の三名にてこれを買受け所有権を取得し右三名の共有となつたが、登記は右三名合意の上右山岡の単独名義で所有権移転登記を受け、次で昭和二十七年四月五日右三名合意の上登記簿上の名義を右猪鼻の単独名義としてその移転登記を了したが、右猪鼻は被控訴人ら他の共有者の同意を得ないで昭和二十八年六月十日右建物を控訴人に譲渡し、同日その旨の移転登記をした、しかし右猪鼻と控訴人間の右譲渡は右両人の通謀虚偽の意思表示であつて無効であるから、被控訴人は共有者として右登記の抹消を求め、その請求権を保全するため本件仮処分命令申請をするものであると主張する。右建物が被控訴人ら三名の共有に属したこと及び右各登記の事実は本件において当事者間に争ないところであるが、猪鼻と控訴人との右建物譲渡が通謀虚偽の意思表示であることについてはこれを認めるべきなんらの疏明もないところである。従つて右譲渡行為が通謀虚偽の意思表示であるため無効であるとの主張は採用することができない。右建物についてなされた前記山岡及び猪鼻の各単独名義の登記は、共有者三名の合意によつてなされたものであることは被控訴人の主張自体により明らかであるから、これはいずれも前記三名の共有物管理のためになされたものと推認すべきものであつて、なんらの権利のない者が名義上だけの登記を得ているものと同一に考えるべきものではない。しからば被控訴人の共有権はその登記のないこと前記のとおりである以上、右猪鼻が被控訴人ら他の共有者の同意を得ないで右建物を控訴人に譲渡したとしても、被控訴人はその共有権をもつて控訴人には対抗し得ないものといわなければならない。従つて被控訴人の請求はこの点からもその理由がない。

次に被控訴人の詐害行為に関する主張について検討するに、被控訴人の損害賠償請求権債権は右猪鼻の控訴人に対する本件建物譲渡行為自体によつて発生するものであることは被控訴人の自ら主張するところであるから、被控訴人の債権は右譲渡行為の以前には成立していないのみでなくこの譲渡行為がなければ発生せず、しかも右譲渡行為が取り消され財産が猪鼻のもとに復帰すれば、それによつて解消すべき性質のものである。このように当該行為によつてはじめて発生する債権を保全するためその行為を取り消すということはむじゆんであつて、債権者にその一般担保の減少滅失をきたす行為を取り消さしめることを本旨とする詐害行為取消制度の趣旨にそうものでないことは多言をまたない。この点の被控訴人の所論は独自のものであつて採用できない。従つて猪鼻の控訴人に対する本件建物譲渡行為が他の一般債権者に対する関係においては詐害行為となるものであるとしても、被控訴人は右損害賠償債権を保全するため自らこれが取消権を行使することはできないものといわなければならない。もしまた被控訴人にして右損害賠償請求権そのものを保全する必要があるならば、よろしく仮差押の方法によるべきものであり、本件仮処分をもつて控訴人に対し本件建物の処分禁止を求むべきものでないことはもちろんである。

しからば被控訴人が本件仮処分の申請はいずれもその理由がないから棄却すべきものであり、右申請を容れて東京地方裁判所がした主文第二項の仮処分決定は取り消すべきものであり、右仮処分決定を認可した原判決は失当として取り消すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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